Google+ FFあんてな: 『明日の朝日は、そこにありますか』 - 第9話

2017年5月10日水曜日

『明日の朝日は、そこにありますか』 - 第9話

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【 不定期 連載小説 】
全てのMMOを楽しむ戦士たちに、色を贈ります。
みそ×ジェミー 合同企画 FF14SS 

~僕は、彼女のことを何も知らない~
『明日の朝日は、そこにありますか』

[ 第9話 ]  光の使徒



<登場人物>
・リュウ: ミコッテ♂を使うプレイヤー。リアル世界に嫌気が差している。
・タマキ(茉莉環):政府に選ばれたテスター。特別な権限がある。

・ゼン:リュウが所属しているLSのマスター。ハイランダーの男性。
・ぐっちゃん:アウラ女性。人懐っこい元気な性格。
・リマ:ミコッテ女性。占い師をしていてオーラを感じることができる。

・エドワード(大塚吉敷):GM。タマキの保護者的役割。
・ベルグ(堺里菜):タマキの主治医。

・めてゐ:バーラムダ2号店 「踊るララフェル亭」 の店主。
・マツリ:バーラムダ3号店 「居酒屋 猫のしっぽ」 の店主。

・ラムダ:バーラムダ1号店の店主。気さくな人物。
・夢蔵:「光の使徒」の総取り。謎が多い男性。



ラムダバーに足を踏み入れたタマキは、めてゐとマツリに案内されて階段を登り、薄暗い室内に広がる綺麗に整頓された店内を見回し、感嘆の声をあげた。
続いて入ってきたエドワードが

「ほう…これは、すごいな」

と呟く。
カウンターの向こうには酒の調度品が並び、大人数が談話を楽しめるようになっている。
椅子には二人の人が腰を降ろしていた。

「わー、ここに来るのは久しぶ…」

そう言って周りを見回したぐっちゃんが、片方のフードを被ったマント姿の男性を見てきょとんとして、青くなる。

「どうした? やあラムダさん、久しぶり…」

そう言ったゼン、そしてリュウまでもが男性を見て固まった。
怪訝そうな顔をしたタマキの手を掴んで、慌ててリュウが彼女を脇に引き寄せる。
びっくりして赤くなったタマキの脇で、リマが腕組みをしながら進み出た。

「悪いね、ラムダ。時間作ってもらって」
「いいよいいよ。興味深い話だしね」

フードの男性の脇にいた、赤髪のララフェルが立ち上がって近づいてきた。
そして、少し離れたところに腰掛けためてゐとマツリから、タマキに視線を移す。

「君がタマキさんか。なるほど、目立つなあ」
「あの…」
「ああごめん、私はラムダ。バーの総支配人をしてる」
「よろしくお願いします」

頭を下げたタマキに頷いてから、ラムダは唖然として固まっているゼンを見た。

「ゼンちゃんじゃない。どしたの、目丸くして」
「いや、ラムダさん。これはちょっと…まずいんじゃないかな…」

珍しく口ごもったゼンの脇で、エドワードが頭を下げた。

「よろしく、ラムダさん。GMのエドワードといいます」
「リマちゃんから話は聞いてるよ。何か大変みたいね」

小さく笑ったラムダに頷いて、エドワードは続けた。

「そちらの方は?」

リュウ達の顔に緊張が走った。
ラムダは隣の男性の太股をビシビシと叩いた。

「おい、夢ちゃん。聞かれてるよ。そろそろ起きな」

小さく呻いて、男性が身じろぎした。
眠っていたらしい。
彼はフードを脱いで、その下のスキンヘッドに眉毛がない、威圧的な顔を覗かせた。

「何だいラムママ。いい夢見てたってのに…」
「夢ちゃんが夢見るって、大して面白くないからね、そのダジャレ」
「寝落ちしてただけだって…」

男性はモゴモゴと言うと、立ちあがって一礼をした。
見たところ、ハイランダーだ。

「はじめまして。『光の使徒』の総取りをしています。夢蔵という者です」
「光の使徒…!」

エドワードがそこではじめて気づいたらしく、顔を険しくした。
夢蔵と名乗ったハイランダーは、しかし大股に近づいて手を伸ばし、エドワードの手を無理矢理握った。

「よろしく」

どこか表情の読めない顔でそう言い、手を上下させてから、夢蔵はタマキを見回してしゃがんだ。

「君が、噂のチートプレイヤーだね」

静かに問いかけられ、タマキは少し考えてから首を振った。

「いいえ、チートではありません」
「ほう…」

夢蔵が顎に手を当てて考え込む。

「私は、あなたと同じいちプレイヤーです」

それを聞いて夢蔵は一瞬キョトンとした後、にっこりと笑った。

「なるほど。それはそうだ」
「光の使徒…エオルゼアの貨幣流通を影からコントロールしている、大規模トレーダー二大勢力のひとつ…」

エドワードは夢蔵を見ながら口を開き、続けた。

「いわば、この世界の超資産家だ」
「超…資産家…?」

首をかしげたタマキに、リュウが言った。

「資産は推定数百兆とも言われてる。その影響力は、リアル世界にもかなり及んでるらしい。エオルゼアの物価コントロールは、光の使徒が殆どやってるんだ。その中でもこの人は、運営からも要注意人物扱いされてる」

それを聞いて、夢蔵は頷いてからリュウを見た。

「よく知ってるな。一つ間違いは、資産は二千八百兆。現在のレートでね」
「ラムダさん、エドワードさんはGMだぞ。さすがに…」

口を挟んだゼンに、夢蔵は言った。

「俺は、やましいことはしていないぞ。全部外野の作り話さ。最近敵が多くてね」

懐からタバコを出して、彼はマッチで火をつけた。
そしてふかしながらゼンを見る。

「それとも、俺をモルディオン監獄にブチ込む証拠でもあるのかい?」
「はいはいそこまで。今日の話はそうじゃないでしょ」

そこでラムダが、パンパンと手を叩いて割って入った。
続いてリマが進み出る。

「夢蔵さんは私の知り合いでもあるの。今回、ちょっと無理を言ってお越しいただいたわ」
「気にするなって、リマさん。俺の方も困っててね」

夢蔵はそう言うと、ラムダの脇のソファーにどっかと腰を下ろした。

「まぁ利害関係の一致ってやつだ。断片的な情報しか聞いていないが、君たちに協力したい」

タバコを吹かしている夢蔵に、ゼンが言った。

「解せないな。仲間をよこすわけでもなく、光の使徒の総取りが出てきただけでなく、特に話もしてないのに協力? 怪しすぎるぜ」
「そう思うのは無理もないね。その点については私が説明しよう」

ラムダが頷いて口を開いた。

「リマちゃんから話を聞いてね。いろいろこっちでも調べてはみたんだ。まだ公にはなってないんだけど、確かに最近、不審な事件がこのエオルゼアで相次いでる」
「不審な事件……?」

怪訝そうな顔をしたエドワードを見て、ラムダは続けた。

「いわゆる、夢ちゃん達の『光の使徒』みたいな、規約的にグレーゾーンの組織が、次々と機能停止してるんだ。組織潰しっていうのかな……ここ数日で、私の知ってる組織の中核メンバーが何人か、いきなり連絡を絶ってる」
「まさか……」

リュウが呟くと、タマキは小さく歯を噛んだ。

「……チャイ……あの子の仕業……?」
「断定はできないけどね。ただ、話にあったIDからデリートしてしまう権限を持ったプレイヤーがいるなら、そいつがエアルゼアの裏組織を潰して回ってるっていう疑いは濃いんだよ」

ラムダはそう言うと、目の前に動画の再生パネルを表示させて全員に見えるように移動させた。

「これを見て欲しいんだ。夢ちゃんの部下のプレイヤーが、たまたまプレイを録画しててね。その映像をもらったの」

全員パネルを覗き込むと、そこには動画主が必死に走っているのか、滅茶苦茶にぶれている画面が映し出された。

『畜生! 何だってんだよ……!』

毒づく声が聞こえる。
隣を走っていたもう一人のプレイヤーが、そこで悲鳴を上げた。
背後からものすごい勢いで炎の塊が飛んできて、彼を凪いだのだった。
一瞬後、ボロボロの燃えカスのようになった彼が、崩れて空気中に消えていく。
異常な消え方だ。

『クソッ!』

それを見て、慌てて動画の主がコントロールパネルを呼び出してログアウトしようとする。

『逃さないよ』

そこで、嗤うように軽やかな少年の声がした。
気づいたときには視界が暗転し、腕を踏まれて動画主が地面に叩きつけられる。
荒い息遣いと、歪む視界にこちらをにやけながら見下ろすフードの奥の瞳が写った。

『ダメじゃないか……ゴミ虫はゴミ虫らしく、地面に這いつくばってなきゃさ』

嘲るように彼……チャイは言うと、手の平に持った炎の塊をこちらに投げつけた。
そこで映像は砂嵐になった。

「間違いないな……」

歯を噛んでゼンが呟く。

「あれが……チャイ……」

口を開いたリュウの手を、タマキが小さく震えながら握りしめ、俯く。

「俺の仲間が、この短期間の間に十二名も襲撃されてる。全員、IDからキャラデータまで全て削除されちまった」

夢蔵がそう言って、タバコを灰皿に叩きつけるように押し付け、エドワードを睨みつける。

「運営に問い合わせはしたが、『調査中』の一点張りだ。幾らなんでも横暴がすぎる」
「……すまない。私はGMとは言っても、この子の保護が任務なんだ。コミュニティセンター管轄じゃない」

そう返したエドワードを睨み、夢蔵は押し殺した声を発した。

「そんなことはわかってる。もともと俺達は運営にはマークされてた。こういう時にサポートがもらえないだろうことも自覚してる。しかし……」

怒りからか小さく震えている夢蔵の肩をポンポンと叩き、ラムダは言った。

「まぁ、これで夢ちゃん側の事情は分かってもらえたかな。君達の方からもいろいろ聞かせて欲しいんだけど」
「分かった。とりあえずみんな座ろう」

頷いてゼンが言う。
タマキは不安げにリュウの手を握っていた。


今までの事情を説明し終わった時には、一時間ほどが経過していた。
夢蔵は煙草をくゆらせながら

「なるほどな……」

と言い煙を吐き出した。

「という事は、俺の仲間を襲ったチートプレイヤーの一人は、運営の手も離れて暴走してるってわけだ」
「有り体な言い方になるとそうなるな……その点については、私の方も調査中だ」

エドワードが頷く。
そこでぐっちゃんが口を開いた。

「でもさ……夢蔵さん。光の使徒に対して私らがどういう風に協力すればいいわけ?」
「…………」

問いかけられた夢蔵は、ラムダ、めてゐ、マツリ達と目を見合わせて、少し考え込んでから言った。

「簡単なことだ。君達……いや、タマキ君を中心とした君達の『コミュニティ』を、俺達光の使徒が全面的にバックアップしよう。その代わり……」
「成る程な。タマキにボディガードをさせようとしてるんだな」

リュウがそう言うと、タマキは心細気な顔をして夢蔵を見た。

「ボディガードなんて……私、そんなことできるのか……」
「君は特別な権限を持つプレイヤーだ。それに、俺達はそのチートプレイヤー……『チャイ』の居場所を知ってる」
「なんだって?」

エドワードが声を上げて立ち上がる。

「教えてくれ。君達に迷惑はかけない」
「…………」

黙り込んでしまった夢蔵を見て、リマが軽く手を上げた。

「まぁ、少しみんな落ち着こうよ。夢蔵さんが教えて何とかなってるなら、とっくに話してるよ」
「残念ながら……な」

夢蔵はため息をついて、スキンヘッドの頭を撫でた。

「困ったことに、チャイは今、『闇の使徒』の本部に匿われている可能性が高い」
「闇の使徒……?」
「クソ、そういうことか……」

繰り返したタマキの脇で、ゼンが歯を噛んで太ももを叩いた。

「どういうことだ? 闇の使徒なんて組織は聞いたことがないぞ」

エドワードが戸惑ったように言うと、夢蔵は彼を見て言った。

「ストーリークエストに『アシエン』という敵が出てくるが、そいつらをモチーフにした犯罪集団だ。運営もおそらく、実態は完全に把握はしていないだろう。RMT(リアルマネートレード=ゲーム内通貨を現実世界で販売すること)関連の、黒ゾーンの元締めは、闇の使徒が全てやっているんだ」
「バカな……そんなこと、運営が許すわけがない!」

エドワードを見て、呆れたように夢蔵は続けた。

「こんなに広大になった電子世界……ほとんど現実世界と変わらない。運営が力を及ぼせる範囲も、限られてる。闇の連中は、その隙間をついてる」
「そこまで言うなら、ちゃんと確証はあるんだろうな?」

リュウが問いかけると、夢蔵は頷いた。

「ああ。闇の使徒の総取りは、俺がよく知っているプレイヤーだ」
「…………」

息を呑んだエドワードに向かって、夢蔵は続けた。

「闇の使徒との戦争が始まる前に、奴を捕まえろ。キナ・カーボニスト。自分を『神』と名乗っている男だ」



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文:ジェミー(天寧霧佳)  挿絵:みそ(ここでセーブするか?



  

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